動体視力から考える目の力

中西哲生さんがパーソナリティを務める東京FM「クロノス」に、出演をさせていただいた時のこと。中西さんはサッカー選手のコーチをなさっていて、選手のパフォーマンスと動体視力の関係について深い興味をお持ちだった。中西さん独自の仮説を立てて選手のパフォーマンス向上につながる確かなコーチングメソッドを築き上げていくお話は非常に面白かった。その中で、どうすれば動体視力を鍛えられるのかという話が出た。これは単に目を鍛えるというものではなく、メカニズムとして奥が深いのでブログに書いてみることにした。

 

動体視力とは、簡単に言うと目の前を動くモノから視線をはずさず、的確に認知して判断する視力のことで、野球選手で言えば、バッターボックスに立ち、飛んでくるボールを打つ瞬間を見極める視覚的な能力のこと。

野球選手がボールを打てるようになるために、極端な表現だが動いているボールが止まっているかのごとく視覚で捉えるトレーニングが大切になる。どこをどう見れば自分の体の動きに一番いい指令をだせる情報が得られるのかを身につけていく。そういった動体視力を鍛えるためには、普通に生活をして遭遇しうる状況よりも、負荷のかかった、より過酷な条件でトレーニングをすることが求められる。例えば、 急速に移動してくるものに書かれた字を読むという訓練方法もあるだろう。

メカニズムを説明すると、まず「ピント」を合わせ、目に入るいろんな情報をきちっと網膜に投影する。その中で「認知」すべき大切な情報はどれなのかを判断する。これをトレーニングすることにより、自分がとる行動に対して役立つ情報がより選択的に入ってくるようになり、その精度はだんだん研ぎすまされていく。

  ただ、その様々な視機能を 計測することもまだまだ研究段階にあると言っていい。そもそも視機能というのは、簡単なようでとても複雑な能力なのである。視力には動体視力に対し静態視力があるのだが、明るい環境、暗い環境、自分が動いている時、物体が動いている時、いろんな条件で視機能は変わってくる。

光学系の観点では実は近視があるのに比較的問題なく見える人もいれば、すごくピントは合っているのに、さほど見えない人がいる。これは角膜の収差や、網膜側の解像度に違いがあったり、脳が認知をする働きに違いがあったりするからだと考えられている。例えば、アフリカのサバンナで生活をしている人は、ものすごく遠くにいて米粒よりも小さく見える動物を見つけることができるのに、そこに住んでいない人が同じ場所から同じところを見てもまったく気がつかない。普段の生活で、認知する必要がないから情報として入ってこないからだ。要するに目の前にあってもその存在に気づかないことがあるように、「見える」「見えない」には、脳の認知が大きく関係している。

中西さんが研究なさっているサッカー選手の目の使い方を意識したトレーニングについてはいつか方法論として世に広まるのが楽しみだ。スポーツに限らず、日常生活の中でも「見る」「認知」「判断」という視覚的な能力は、もっと役立てることができる。そんな可能性について考えさせてくれる収録だった。