慶應医学部の体育会テニス部での出来事

8月の日本出張はちょうどお盆シーズンと重なった。そのおかげで、週末によく一緒にテニスをする大学時代からの友人とも都合がつき、めずらしくも平日にナイターテニスをすることになった。ナイターテニスをしたのは慶應医学部のテニス部が定期的に練習をしている会員制の明治神宮外苑テニスクラブ。ここでの出来事が心に深く残っている。

シアトルでも日本でも、だいたい週に1、2度はコートに立つようにしているが、日本では室内コートを使うことが多い。少し暑さが和らいだ夏の夜に外で運動するのは気持ちがいいものである。

夜に会食が入ることが増えたせいもあって、明治神宮外苑テニスクラブでナイターテニスをしたのは何年かぶりのことだった。コートにいたのはほとんどが学部生。そもそも現役で医者をしている先輩方は忙しすぎたり、地方勤務をしていたりで、平日の夜にここに来ることはほとんどない。テニスに来ることが難しくなってテニスクラブをやめてしまう人も多いのである。

私が友人とテニスをしていると、多くの現役学部生部員たちが丁寧に挨拶に来てくれた。現役時代はレギュラーでもなかったし、その当時の自分は普段からつきあいある先輩以外の方をコートで見かけても挨拶にいくことはあまりなかったように記憶している。かゆいところに手が届くような気の利いたことができる後輩でもなかったし、いわゆる上下関係というものにどっぷりと浸かることもなかったあの頃の自分を思い出した。

挨拶に来てくれたきっかけをつくったのは友人だった。たまたま近くを通りかかった学部生に「窪田君って知ってるかい?」と尋ねたのである。もちろん名前は知っていると答えてくれた。驚きは続く。なんとその後、その学部生がコートにいた部員を束ねて私に挨拶をするために戻って来てくれたのである。クラブハウスにいた部員までもが後から駆けつけてくれた。わざわざ練習を中断して笑顔で挨拶に来てくれたことが照れくさくも、ものすごく嬉しかった。大学を卒業してから20年以上になる自分のことをこんなにたくさんの学部生が知ってくれている。この上ない喜びというと大げさに聞こえるかもしれないが、この上ないものである。声をそろえて大きな声で挨拶する彼らの礼儀正しい姿勢に感銘を受けたことは言うまでもない。

この後輩たちのために何かをしてあげたこともなければ毎年開かれているクラブのOB会にも参加したことがない。そんな私を先輩として認知してくれたことが嬉しい。
これから社会に旅立つ後輩たちが助けを必要とする時には役に立てる先輩でありたいと思う。笑顔で挨拶に来てくれた後輩たちへの感謝の気持ちを気持ちのまま終わらせることのないよう未来につなげていきたいものだ。