加齢黄斑変性の治療薬開発について

アキュセラが開発中の加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい、AMD)という目の病気の治療薬候補の臨床試験フェーズ2aの結果が「RETINA」という米国の眼科ジャーナルの2015年6月号に掲載されました

加齢黄斑変性は、緑内障よりも患者数が多く、世界で約1億3千万人もの人々が患っています。欧米では失明にいたる原因疾患の1位を占めるほどです。進行すると視野の中心部から見えなくなるため、字を書いたりお茶を入れたりする日常的な動作に支障をきたしてしまいます。

この病気は、視細胞が光を浴びすぎて網膜がダメージを受けることが原因のひとつと考えられています。初期のドライ型を経て、ドライ型のまま視力が低下するケースと、長年ドライ型を患ったのちに眼底出血をきたしウェット型に移行するケースがあります。この二つのタイプの末期症状の違いをわかりやすく例えると、液晶画面のピクセル落ちが一つのドットから徐々に広がって地図状あるいは面状に広がっていくのがドライ型で、画面の上に絵の具をこぼしてしまうのがウェット型です。詳しくは、私がプレジデントオンラインで連載している【開眼!「朝令暮改」仕事術】の「飲むサングラスって何ですか?」に書いていますので、そちらをお読みいただければと思います。アキュセラが開発中の「飲むサングラス」と呼ばれる「エミクススタト塩酸塩」についても解説しています。

( 地図状に視細胞が死滅し、視野が失われるイメージ)

( 地図状に視細胞が死滅し、視野が失われるイメージ)

さて、「RETINA」に掲載された臨床試験フェーズ2aの結果についての論文は、いくつかニュースでも取り上げていただいていますが、最も重要なところを抜粋して、ここでも説明したいと思います。

この臨床試験は 、加齢黄斑変性の中でも、地図状萎縮を伴うドライ型を発症している患者さんを対象に「エミクススタト」の安全性、忍容性、薬理作用を確認する目的で、72名の患者さんをプラセボという偽薬を飲むグループと、投与量別に2mg、5mg、7mg、10mgを経口投与するグループにわけて行いました。バイアスを取り除くために、投与する医者も患者さんも、だれがどの投与量グループに属しているかはわからない二重盲検という仕組みで、1日1回、90日間、3ヶ月にわたり服用してもらい、病変を調べました。

注目していただきたいデータが下の図の赤色でハイライトしている数値です。FAFというのは、fundus autofluorescenceという自家蛍光を用いて白黒の眼底写真で病変を計測したデータで、FDAと合意している、承認申請するときの主要評価項目にあたります。

プラセボ、2mgを午前に1回、5mgを午前に1回、5mgを午後に1回、毎日1錠3ヶ月間投与した患者さんの病変を分析しました。この数値は、「エミクススタト」を飲み始めた時と、3ヶ月後では病変の大きさが どれくらい変わったかをあらわしています。プラセボを投与していた患者群は、平均0.2平方ミリメートル進行し、「エミクススタト」を投与していた患者群は-0.1から0.0平方ミリメートル、すなわちほぼ変化がなかったことがデータで示されました。

出典:「RETINA, The Journal of Retinal and Vitreous Diseases, 2015, Volume 35, Number 6」のチャートを参考に作成

出典RETINA, The Journal of Retinal and Vitreous Diseases, 2015, Volume 35, Number 6」のチャートを参考に作成

もちろん、この段階では統計的有意差はありませんし、3ヶ月の試験の結果にすぎませんから、断定的なことを申し上げることはできません。しかしながら、少なくとも「エミクススタト」を服用した患者さんは進行がとまり、プラセボグループの患者さんは進行するというトレンドがあるということは確認できました。プラセボグループの患者さんは、多くの論文に発表されているヒストリカルデータに基づく病気の進行スピードと類似のスピードで進行したことも明らかになりました。

そういった意味では、まだまだ3ヶ月のデータで症例数が少ないとはいえ、正しい方向性をもって進んでいるということは言えると考えています。

この3ヶ月間で、服用した患者さんは進行せず、プラセボグループの患者さん は進行したという違いが見えているということは、飲み始めた直後から、この病気の進行が止まる可能性があり、より長期間の試験では「エミクススタト」の有効性を証明できる可能性が十分あることを示唆しているわけです。

そういう意味で、私たちは、このデータを得られたことにエキサイトしていますし、この論文を発表してから、アキュセラに入社したいという科学者および研究者が増えたことも喜ばしいと思っています。最近でも、ルーカス・シャイブラー博士がトランスレーショナル医療担当上級副社長としてアキュセラのチームメンバーになりました。彼は、アルコン、ノバルティスという世界最大の眼科医療メーカーで、化合物の目利き役という重要なポジションを担ってきた人物です。その彼が大企業からアキュセラというベンチャー企業を選んだことは米国では大きな話題になりました。彼が入社を決意した最大の理由は、この論文でした。彼自身が論文を読み、データを見て、「エミクススタト」とアキュセラの技術に将来性を見出してくれたというわけです。

もちろん、臨床試験は、期待する薬効だけではなく、副作用も明らかにしなければなりません。「エミクススタト」の臨床試験フェーズ2a における全身への副作用は見受けられませんでした。ただ、「エミクススタト」は、視細胞のうち、光への感度が高く薄暗いところで働く桿体細胞(かんたいさいぼう)を休ませる薬ですので、暗順応が遅くなるといった自覚症状は、一過性であり軽度であることが多いものの一部の患者さんに見受けられました。これは細胞の機能を制限することによる薬理作用を反映しているものだと考えられ、薬が効いている証拠だと考えられ、強い手応えを感じています。

こういったデータをもとにしてデザインされたのが、現在、欧米で行っている臨床試験フェーズ2b/3 、大規模臨床試験です。 慎重を期すために24ヶ月間投与を続けます。プラセボグループの患者さんの病変が十分に進行しないと、「エミクススタト」を服用する治療グループとの差が見られないだろうと判断したからです。 現在508人の患者さんが登録されていて、半分以上の患者さんがすでに2年の投与を終えています。来年の夏にはトップラインデータを公表できる段階まできており、この度、3ヶ月の試験で得られたような結果が24ヶ月の臨床試験でも得られることを願うばかりです。

新薬候補となる化合物の探索を開始したのがちょうど10年前、2005年10月でした。それからわずか2年で化合物を発見し、2008年には臨床試験に入ることができました。新薬開発の成功確率は3万分の1と言われていますが、もう手の届くところまで来ていると感じています。

欧米の医療機関と「エミクススタト」の大規模臨床試験を進めながら、シアトル本社や研究所では眼科領域における先進医療技術の研究や新規事業を発表できる日が1日でも早く来るように、私とスタッフは日々全力を尽くして取り組んでいます。